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注目記事 (2004/12/6)

Opinions:
 
「2010年の日本経済:3つの成長シナリオ」
 宍戸駿太郎 (国際大学・筑波大学名誉教授)
  
日本経済の状況と構造問題
   日本経済は輸出主導で回復しているようにみえる。事実、今年の実質GDP成長率は4%、名目成長率は1.8%になる一方、輸出成長率は14%で、経常黒字・GDP比は3.5%になる。しかし来年の景気予測は明るくない。実質成長率は1〜2%に減速し、名目GDPはゼロ成長で、実質輸出成長率は5〜6%に減少するであろう。現在の緊縮財政政策が続くかぎり、財政赤字が続き、労働需要は弱いままで、巨額な経常黒字も減らないために円高圧力も続かざるをえない。
   公共投資を抑制し続けているために、地方経済が回復せずに、地域格差が拡大しつつある。特に北海道、東北地方、日本海側が落ち込んでいる。所得格差もより深刻になっており、社会状態が悪化して、犯罪や自殺が増えている。所得や雇用の情勢が悪いので、出生率が政府の予想以上に低下しつつある。
   このところ蔓延している悲観論には3つの原因があるようにみえる。(1)少子高齢化という人口的要因、(2)国際的にみて高い政府債務比率による政策選択の制約、(3)構造改革とリンクした供給能力不足の過度な強調による総需要喚起の必要性の軽視。
成長シナリオのグランドデザイン
   レオンチェフ・ケインズ型の動学的なエコノメトリックスモデルを構築して、2004〜2010年の間の日本経済について3つのシナリオを考えてみた。それらは、(1)ベースライン・シナリオ、(2)ビッグプッシュ・シナリオ、(3)ビッグプッシュ・プラス・消費税引き上げのシナリオである。
(1)ベースライン・シナリオ
   現在の政策スタンスが2010年まで続き、政府投資の伸びがゼロ%で、ゼロ金利政策も続くと仮定する。結果は、輸出がかなり伸びたとしてもGDPの成長は実質でも名目でも弱くなる。現在の高い失業率も巨額の経常黒字額も低下する兆候が現れず、政府債務・GDP比率は倍増して、1.32まで上昇する。総人口は2007年以降減少し始めるであろう。景気も弱さが続き、最後の2年間で少し上向く程度で、円は上昇する傾向を持つ。
(2)ビッグプッシュ・シナリオ
   経済成長率を加速するために、政府投資、企業投資、住宅投資の3つのチャンネルを考える。政府投資については、2004年と2005年に15%増、それ以降は7%増を仮定する。企業投資へのビッグブッシュは、IT、バイオ、ナノテクといった戦略的分野で行われると仮定する。すると結果として、実質GDP成長率を前半で4〜6% に、また後半に3%程度にまで加速させ、失業率を押し下げ、生産能力の稼働率も大幅に引き上げる。政府債務・GDP比率は上昇していくが、ベースライン・シナリオよりも低いレベルにとどまる。それはGDPの成長率が高まることと、税収の伸びが高まるためである。ベースライン・シナリオに比べると経常黒字は減少し、円も下落する。雇用や住宅の条件が改善するため、総人口も増加し続ける。
(3)ビッグプッシュ・プラス・消費税引き上げシナリオ
   政府債務に考慮し、ビッグプッシュ・シナリオに加えて、消費税を2007年に7%へ、そして2008年から2010年の間は10%へ引き上げることを想定する。結果は、実質消費や物価に多少の影響を与える程度であるが、もっとも目立つのは政府のプライマリー・バランスへの効果である。また、政府債務・GDP比率にもある程度の好影響を与える。このシナリオは、経済を回復させてから財政改革を行うことが、改革の痛みを緩和しながら効果を上げる点で望ましいことを示している。

英語の原文: "Japanese Economy in 2010: Three Growth Alternatives"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20041206_shishido_japanese/
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