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注目記事 (2005/11/28)

Opinions:
 
「日本と北東アジア:統合モデルによる政策シミュレーション」
  宍戸俊太郎 (国際大学・筑波大学名誉教授)他

(2005年6月27日〜7月1日に北京で開催された国際IO学会で宍戸教授が発表した論文の日本語抄訳)
  
  この研究では、日本に加えて中国、香港、台湾、韓国、北朝鮮、モンゴル、ロシアおよび北東中国と極東ロシアの一部の2つの地域をカバーする。これらの国のモデルは貿易マトリックスによってリンクされる。国ごとのモデルでは、日本モデルが非常に大きく、81部門から成り、財政金融の変数も含まれている。これに対して、他の国のモデルはかなり単純で、雇用、資本ストック、消費、投資、輸出といった5部門から成る。
  政策シミュレーションは2種類行われる。第1は、北東アジア諸国のモデルを使った2000〜2020年の期間の長期シミュレーション、第2は、日本と北東アジア諸国を統合したモデルを使った2002〜2010年の期間の中期シミュレーションである。いずれの場合も、共通の政策を仮定して、(a)ベースライン、(b)中国成長加速、(c)日本成長加速、(d)慢性的世界不況のシナリオを考える。
  長期シミュレーションについて、(a)ベースラインのシナリオは、これまでの動向を引き伸ばした場合で、2000〜2020年の20年間では、中国がGDPや貿易の成長率でリードし続ける一方、日本は緩慢なデフレ傾向から脱却できない。中国、日本、韓国やその他の国の間で、成長率の格差は続き、輸出額で中国は日本を2015年前後に追い越すであろう。
  (b)長期の中国における成長加速および積極的な財政と外国からの直接投資のシナリオでは、中国のGDPの成長率が1%ほど加速して、貿易も同様のトレンドを示し、日本をしのぐ点において過去数年の実績に近いものになっている。韓国、台湾、ロシアなど近隣諸国に与える拡張的な影響も見られ、日本の輸出の成長率もベースラインシナリオの2.9% から3.1%に加速する。ただし、中国のインフレやGDPギャップおよび貿易収支をさらに変化させる兆候は見られない。
  (c)長期の日本における成長加速のシナリオでは、日本の成長率が4%ほどになり、10年以上続いた慢性的デフレから脱却する。輸入も5.5%増加して、(b)のシナリオほどではないが、北東アジア全域に大きな効果を及ぼす。特に、中国の北東地域とロシアの極東地域への影響は(b)のシナリオより大きく、日本との金融面および技術面の協力により中国の成長も加速する。
  (d)長期の悲観的なシナリオでは、世界経済低迷と貿易減少が仮定され、特に双子の赤字を抱えた米国経済が減速することから、北東アジア全域にわたって広くマイナスの影響が及び、多くのアジアの国で人口も減少に転じる。
  中期的な2010年までのシミュレーションでは、日本がモデルに内生化されて、北東アジアから日本への影響が重要になる。したがって、基本的には以上の長期的なシミュレーションと同様なパターンが観察できるが、いくつかの違いがあり、例えば(b)の中国の成長加速シナリオの場合と比べて(c)の日本の成長加速シナリオにおける日本の輸出の増加は、中期的なシミュレーションの場合はほうがはるかに大きい。
  中期的なシミュレーションによる日本の成長加速のシナリオでは、公共投資、金融緩和などを仮定しており、そのために日本の失業率は下がり、設備稼働率は上がり、輸入が増加し続ける。この場合、税収が増えるので、政府の純債務の対GDP比率は減少する。
  結論として、日本と北東アジアおよび世界経済の間には、水平的な貿易関係だけでなく、垂直的な分業も進んできており、それがグローバルな資本や投資の流れで促進されていること、また日本を含めた北東アジア全域の相互依存関係が強まっており、インフラ整備、環境保全、エネルギー節約技術、FTAや貿易自由化などによる相互の協力関係がプラスの効果を高めていること、さらに北東アジアが世界経済発展の重要なエンジンの一つになっていることを明記しておきたい。

英語の原文: "Japan and Northeast Asia -- Policy Simulations with an Integrated Model: An Abridged Version"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20051128_shishido_japan/
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