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注目記事 (2006/7/18)

Opinions:
 
「台頭する日本のナショナリズムをどうするか」
 目良浩一 (南カリフォルニア大学教授)
  
  二種類のナショナリズム
  去る7月5日の北朝鮮によるミサイル発射以降、日本におけるナショナリズムが一段と高まりをみせているようである。日本のナショナリズムや愛国主義が最近高揚していることは、近隣諸国に対して強いスタンスを取る小泉首相への支持が増えていることからも分かる。今や北朝鮮の基地に対して先制攻撃を行なうことが議論されたり、また自衛のために自前で核兵器を開発する可能性さえも考えられるようになった。多くの日本人は北朝鮮についてミサイル問題でも拉致問題でも、愛国的でタカ派的な対応をとるべきとしているようにみえる。
  日本のナショナリズムが目立つようになったのは最近かもしれないが、それはすでに長い間をかけて徐々に国民の間で醸成されてきた。教科書問題や靖国参拝問題で日本に批判的な中国や韓国に対して、歴代の日本の首相が謝罪外交を行なってきたことに多くの国民はフラストを感じてきたといえる。今や太平洋戦争とその後の過程で日本が栄光を失ったことについてほとんど知らない国民が増えて、日本がただ二流国として扱われることに不満を抱くようになってきた。これが近隣諸国の反発にもかかわらず、多くの日本国民が小泉首相の靖国参拝を熱烈に支持する主な理由と思われる。
  ここで日本には二種類のナショナリズムがあることを指摘したい。第一は過去を懐かしむ「後ろ向き」のナショナリズムであり、日本の古い習慣や伝統を再発見して理想化するもので、その例は藤原正彦著『国家の品格』に見られる。この本のなかでは伝統的な日本、特に武士道に関するものは何でも美化され賞賛される一方で、西欧の影響は厳しく批判されている。この種のナショナリズムは、国内の改革を遅らせたり欧米諸国との関係を悪化させるために利用される恐れがある。また日本を明治維新以前に戻そうとする一部の人々の回顧主義を助長する傾向を持つ。
  もう一つのナショナリズムは、より開かれた「前向き」のもので、評論家櫻井よしこの最近の著書『この国をなぜ愛せないのか』で表明されている意見がその典型といえる。アジアで生まれ、米国で教育を受けたこの著者は、ナショナリストであるとともに急進的な改革論者で、小泉改革についても「不十分で遅すぎる」と批判するほどである。日本の若い世代は、回顧的なナショナリズムよりも、このような開かれた前向きのナショナリズムを支持しているようにみえる。
  日米関係を見直す必要性
  このように台頭するナショナリズムは、世界で日本人が必ずしも多国の人と同等に扱われていないことに気づいている人々の一つの表現である。ただし、このような状態を作り出した責任は国そのものにあるともいえる。国はこれまで黙って他国の政策に追随してきただけで、自分自身の政策を持たなかった。これから日本は世界に対して自分の意見をはっきり表明して自分の行動を十分説明する必要がある。小泉首相はこれまでなぜ靖国神社を参拝するかを説明したことはなく、ただそれは個人的な希望で、他国は自分の個人的信条を批判すべきでないと言ってきただけである。しかしそれでは十分でなく、外国の批判に応えるためには何らかの理論的なバックを持たなくてはならない。そのためにタブーなしのオープンな議論を行なう必要があり、そうすれば日本で健全なナショナリズムを育てることに役立つであろう。
  日本は自らの国を守る気概を持った「普通の国」になるべきであるし、またそうなるであろう。日本が米国の軍事力に完全に依存している状況は見直される必要がある。実際に、日本が北朝鮮などによるミサイル攻撃に対して自らを守るための十分な軍事力をもつべきで、そのような攻撃に対して米国は日本を守る意思も手段も持たないので米国の助けを期待すべきでないという見方を支持する日本人が増えているようにみえる。したがって、日本は米国と協議を開始して、長期的に日本が米国から独立して、核を含む自前の軍備を持つ見通しについて考えるべきではないだろうか。
  もちろんそのような長期的な見通しを、両国間の摩擦や対立を避けて現実化させていくためには、日米両国ともより賢く理解力のある政治リーダーを必要とすることはいうまでもない。また日本国民も自国のナショナリズムを制御していくためにより合理的で前向きにならなければならない。歴史や道徳の分野の教育が、前向きで開かれたナショナリズムを育成する上で重要かもしれないが、それよりもまず政治リーダーが日本を自国民に愛され他国民から尊敬されるような国にするために努力することが先決であろう。

英語の原文: "Managing Japan's Rising Nationalism"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20060718_mera_managing/
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