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注目記事 (2006/10/2)

Opinions:
 
「著作権制度の転換点:『クリエイティブ・コモンズ』の利点」
 上村圭介 (国際大学グローコム主任研究員・助教授)
  
  情報化時代の著作権
  デジタル・コンテンツを中心とした情報ビジネスを展開する上で著作権が欠かすことのできない要素であり、知的財産権が重要なものであるという意識が高まっている一方で、そのような権利がもつ不気味さが浮かび上がってきている。この状況を詳しく検討することにしよう。
  そもそも著作権とはどういう権利だろうか。著作権法によると、著作権制度の目的は「著作者等の権利の保護」と、「これらの文化的所産(著作物)の公正な利用」を果たし、「文化の発展に寄与」することであるとされている。つまり、著作権制度の最終的な目的は、「文化の発展に寄与」することとされているように、「著作者の権利の保護」と「著作物の公正な利用」の間のよいバランスを見出すところにある。
  現行の著作権制度では「思想又は感情を創作的に表現したもの」であれば、誰の作品であっても巧拙を問わず著作物として扱われる。また著作権は創作と同時に発生するとされ、著作物であることを示すための特別な手続きは必要ない。その意味で、著作権とは「ユビキタス」で、かつ「不可視」なものであると言える。著作権が、私たちにとって一見縁遠いものでありながら、確実にある種の拘束感を与えるものとなっているが、それは、著作権制度のこのような特徴が原因であろう。
  情報技術の発展と普及は、著作物、とりわけデジタル・コンテンツを取り巻く環境を大きく変容させた。デジタル技術により、コンテンツを劣化することなく記録することが可能になった。また、デジタル処理されたコンテンツは複製に伴う劣化も克服した。さらに、インターネットに代表される情報ネットワークは、コンテンツの流通における時間と空間の制約を取り除いた。それだけではなく、これらの技術を活用することで、職業的コンテンツ作家以外の人であっても自由にコンテンツを作ることできるようになった。もちろん、それに加えて、情報技術と情報通信ネットワークがもたらした前述の三つの恩恵も同時に受けることになる。著作物を取り巻く環境は、従来の著作権制度では想定していなかったほど多様になったのである。
  一つの解決策「クリエイティブ・コモンズ」
  このような著作権制度の問題に対する一つの答えが、「クリエイティブ・コモンズ」である。「クリエイティブ・コモンズ」(以下CCと略す)は、スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授らが提唱した運動で、著作物の自由な流通と共有を実現することを目指している。人類の創作活動は、無から発生するのではなく、過去や同時代の芸術的・文化的資産を吸収し、それの資産に刺激をうけて進められるものである。したがって、創作活動を促進するためには、できるだけ多くの著作物が、可能な限り自由に共有できる状態にあることが必要である。
  しかし現行の著作権制度は、そのような自由な流通や利用を最大化することを目的には設計されておらず、著作物を使用する行為は著作権者にのみ許されている。もちろん、事前に許諾が得られれば、第三者であっても著作物を利用することが可能である。しかし、「デフォルト」ではそのような利用の可能性は閉ざされている。
  そこで、CCでは、著作物の自由な共有を実現するという理念に賛同した著作者に対して、著作物を公開する際にはクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンス(以下CCライセンスと略す)という利用許諾を適用することを呼びかけている。CCライセンスに基づいて公開された著作物には、それを示すロゴマークが付与される。CCライセンスでは、著作者は利用者に対し、著作物の自由な共有を認める。ここでいう共有とは、単に閲覧・再生できるということではなく、再利用も可能であることを意味している。制度をあえて変更することなく、CCの理念を反映した運用をすることで、自由な共有が可能なコンテンツの「コモンズ」(共有地)がもたらされることになる。
  もちろん、CCはすべての著作物に自由な流通と共有を強制しようとするものではない。商用著作物には正当な対価が支払われるべきである。また、CCで考えられている著作物の自由な共有という発想は、正当な対価の徴収を否定するものでもない。この点でCCは著作権制度と対立するものではなく、むしろそれを補完する。ソフトウェアの世界で商用ソフトウェアとフリー・ソフトウェアやオープンソース・ソフトウェアが共存するように、コンテンツの世界でも似たような共存関係を狙うのがCCと言える。
  標準化された共通のCCライセンスによって予め利用条件を表示しておくことで、許諾を得るための交渉が減り、許諾コストを削減することができる。CCの考え方と、それに基づくCCライセンスは、自由に共有できる著作物の範囲の拡大をもたらすものと期待されている。CCは、著作物の自由な流通と共有を取り戻すことで、このような創作活動本来のあり方を取り戻し、新しい時代の創作活動の地平を切り開こうとするものであるといえる。

英語の原文: "Turning Point for Copyright System: Merit of 'Creative Commons'"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20061002_kamimura_turn/
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