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注目記事(2008/7/22)

Opinion:
 
「日本の映画産業の将来:ハリウッドからの見方」
 横山智佐子 (International School of Motion Pictures学校長)
  
  ロサンゼルスに2年前に開校した私どもの映画学校は、主に日本から来た学生に「ハリウッドスタイル」の映画作りを教えており、その日本と違うスタイルの映画作りが新鮮で面白く感じられるため学生たちは大いにエンジョイしながら学んでいるようである。
  ここで「ハリウッドスタイル」とは、映画製作を一種の「プロジェクト」とみなし、プロジェクトリーダーであるプロデューサーが、直接に俳優やスタッフだけでなく監督まで雇い、資金的な面も含めて映画作りのすべての過程を取り仕切るスタイルのことである。そのようにして、プロデューサーがよい作品作りを目指さなければ、日本と違って系列下の映画館を持たないプロデューサーやスタジオは作品を世に出すことができない。
  ハリウッドのもう一つの特徴は、映画作りにおける分業と専門化が極端まで進んでいることである。映画作りのほぼすべての過程がプログラム化されており、ルールやマニュアルに従うので、それだけ多種多様な専門分野が定義しやすく、それぞれの分野のスペシャリストも有効に訓練して利用することができる。そしてスペシャリストたちは自分たちの特別な能力で貢献するとともに、自分たちのユニオンが守ってくれるために、十分な報酬が保証されている。
  以上のことを考えると、日本の映画作りの問題点が浮かび上がってくる。まず、日本の映画作りの過程はハリウッド映画とは正反対の場合が多く、例えば、出資者が集まって人気のある俳優の採用を決めると、日本の市場ではそれだけで興行的に成功が保証されるので、後は監督を決めて映画作りをすべてまかせてしまうというやり方が多い。その上、系列下の映画館での上映が保証されているので、映画の質が問われることはなく、国際的に通用するよい映画ができる可能性は極めて低い。
  さらに映画製作の現場の労働条件に関して、低賃金と長時間労働が常態化しているという問題がある。映画が興業的に成功してもその利益が会社に帰属し、実際に現場で仕事をしている社員には十分に支払われないが、それは仕事の保証や安定と引き換えであると理解されている。ユニオンも企業組合なので助けにならない。世界的に最も高く評価されているアニメ産業の労働条件が中でも最悪であるという事実は皮肉と言わざるを得ない。これでは良い人材は集まらず、長期的に映画産業の衰退につながる恐れがある。
  ただし、私が日本で会って話した多くの人は以上のような日本の映画作りの問題点をよく理解して、何とかしようと努力しているようにみえる。しかしこの分野の大企業のあり方や資金の流れはなかなか変わりにくいことも確かである。したがって、政府が映画産業の改革へのイニシアティブをとって、例えば「プロデューサー」の養成に力を入れているのは望ましい動きといえる。
  また東京から離れた地方で映画作りへの努力がなされていることも注目に値する。例えば、鹿児島では映画産業の立ち上げが目指されており、独自の映画製作も試みられるとのことである。そのような地方での試みが成功すれば、これまでのやり方が支配的な東京での映画産業のあり方に対して別の選択肢を提供し、それが日本の映画産業全体を望ましい方向に変えるきっかけになるかもしれない。このロサンゼルスの映画学校の卒業生が、以上のような望ましい動きに参加できるようになることを期待したい。

英語の原文: "Future Prospects for Japanese Film Industry: A View from Hollywood"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20080722_yokoyama_film/
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