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デフレ解消のために量的緩和の継続を

新保生二 (青山学院大学教授)


オリジナルの英文:
"Further Quantitative Easing Needed to Stop Deflation"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030707_shinpo_further/


要 旨


学者や政策担当者の間で、日本経済の問題について大きな意見の食い違いがあるようにみえる。そのような経済に対する見方の違いが、日本経済の抱える病気に対する深刻な「診断の誤り」をもたらし、効果のない政策を繰り返したり、本当に重要な問題を先送りしたりという「処方の誤り」につながった。


診断の誤り

1)財政政策と金融政策
診断について第一の誤りは、財政政策か金融政策かという点に関するものである。いまだに日本のエコノミストや政策担当者の間では、財政拡張策をやれという意見が強い。しかし、私は多くの欧米のエコノミストの見方と同様に、財政政策の乗数効果はそれほど大きくないと考えている。実は、先進国の中でいまだに財政拡張策で経済を刺激しようという政策をとっているのは日本のみで、他の先進国は90年代に一貫して財政再建路線をとってきた。欧米諸国は、もはやケインズ的な需要刺激策をとるのではなく、財政赤字の削減によって金利を引き下げ、将来に対するコンフィデンスを高めることを通じて成長率を高めようという考え方を信じるようになった。財政拡張策が有効でないことは、日本経済が90年代に巨額な財政支出を行ったにもかかわらず、同じ時期に財政再建を行った他の先進諸国に比べて成長率が低かったことからも明らかといえる。


2)デフレの原因
もう一つの誤りは、デフレの原因に関するものである。多くの欧米のエコノミストは需給ギャップ、あるいは貨幣不足に原因があるとみている。それに対して日本のエコノミストの間では資金がだぶついているというイメージが作り上げられているが、それは流通速度(名目GDPの貨幣に対する比率)が下がっているのを見ているからであろう。しかし、もともと日本の流通速度は低下傾向があるので、その趨勢からの乖離をみる必要があり、その実績値は90年代を通じで一貫して趨勢を上回っていた。これは、貨幣不足の状態にあったことを意味する。日本のエコノミストは、デフレが中国のような低コストの国からの安い輸入品によって引き起こされていると見ているようである。しかし、私の推計の結果によれば、輸入価格よりもGDPギャップの方が持続的な影響をデフレに対して与えており、さらに上に述べた流通速度の趨勢からの乖離もデフレに大きな影響を持っている。これは貨幣供給が、間接的にGDPギャップを通じて、また直接的に流通速度を通じでデフレに影響を与えることを意味する。


処方の誤り

1)金利引下げについて
処方について第一の大きな誤りは、1990年代前半に金利の引き下げが遅れたことである。米国では1992年までに名目利子率を大きく引き下げ、実質金利をゼロにしたのに対して、日本では名目金利を十分引き下げなかったため、実質金利は2%ほどに高止まりしてしまった。その後日銀は名目金利をゼロまで引き下げたが、すでにデフレを止めるには遅すぎたといえる。私の推計した結果によれば、名目成長率は財政支出の変化率よりもマネーサプライの変化率によってより大きな影響を受ける。したがって、税制財政政策は効果がない一方、金融政策が90年代において名目成長率を引き下げる主要な理由となった。


2)不良債権の処理について
もう一つの処方の誤りは、よく指摘されるように不良債権の処理が遅れたことである。日本だけでなく、他の国も1980年代の末から90年代の前半に起こったが、他の国は1991年から93年までに本格的な対応を取った。それに対して、日本は海外の経験から学ばずに、長銀が破綻した1998年頃からようやく対応を取ったので、解決のコストも非常に大きくなってしまった。明らかに不良債権処理の遅れによるコストの増加は、日本の成長率に影響を与えている。不良債権処理を済ませた他の国は1994年頃までには高い成長率に戻ったが、日本だけ成長率が下がった。これは日本の問題が単なる需要不足だけでなく、より複雑化してしまったからである。


3)技術主導型の経済への移行
長期的な視点からの誤りとしては、投資主導型の経済から技術主導型の経済への移行が遅れたことがある。それには、個性や独創力を重視するような新しいインセンティブ体系を築くことが必要で、教育、企業統治、税制、資本市場などの既存の制度を徹底的に見直すべきである。さらに、日本の経済構造を民営化し、規制緩和、対外開放を積極的に進め、「結果の平等」ではなく、「機会の平等」を重視し、日本経済の環境適応力を高め、活力を取り戻すように改革を進めていかなればならない。構造改革よりも景気回復の方が先だと主張するエコノミストは多いが、問題はどうやって景気回復を実現するかである。日本経済の最大の問題は、長年の経済の低迷によって成長力に対する一般のコンフィデンスが失われてしまったことである。その結果、財政拡張策では企業の投資を刺激しなくなった。従ってなすべきことは、現在の政策スタンスを転換し、不良債権を処理しつつ、構造改革を推進することである。


量的緩和が必要不可欠

構造改革の効果が出てくるには時間がかかるので、その間にデフレが悪化しないようにしなければならない。デフレ下では、銀行の問題は解決するどころか悪化する。また財政赤字も拡大を続け、やがて維持不可能な状況に陥るであろう。あれだけ量的緩和は効果がないという主張を繰り返してきた日銀が、2001年春以降量的緩和策を導入し、2001年後半から2002年前半かけてマネタリーベースを大幅に増やした。しかし、このところその増加率を再び低下させていることが懸念される。エコノミストの間では、貸出ルートが機能していないからほとんど効果はないだろうという意見が強い。そのような見方を否定するために、私が行った最近の推計結果によれば、マネーサプライは、マネタリーベースに大きく左右される。その推計結果を使ったシミュレーションによれば、今後名目マネタリーベースを年率25%で増加させていくことで、名目成長率を2006年までに2%に引き上げることができる。

(抄訳:宮尾尊弘)

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