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悲観すべきでない日本の人口減少

原田泰 (内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)


オリジナルの英文:
"Is there reason to be pessimistic about Japan's declining population?"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030916_harada_is/


要 旨


日本の人口が減少していくことが将来に対する不安をもたらしている。しかし人口減少により労働力が減少するというのなら、生産性を高め、より多くの人が働けば良い。高齢社会のコストが高くなりすぎるなら減らせばよい。人口が減少しても日本経済の将来を悲観する必要はない。


人口の減少は悪いことではない

人口の減少が社会を暗くするとの指摘がある。しかし、日本の人口は1900年には4,300万人であったのが、100年後の2000年には1億2,700万人まで増加した。もしこのペースで人口が増加すれば、2100年には3億7,500万人になるが、これだけの数の日本人が、狭い国土で平和に豊かに暮らすことは困難であろう。


年齢別に男女の人口を左右に横棒グラフで書いた人口ピラミッドが、たしかにピラミッド型をしていた時代もあった。しかし、人口がそれほど増加しない中で、人口構成がピラミッド型をしているということは、人間はいつでも死んだということだ。乳幼児も子供も青少年も壮年も、そして老人も皆が様々な原因で常に死んでいたということである。


一方、寸胴型の人口構成は、豊かになり、衛生水準が上がり、人間は死ななくなったということ、つまりほとんどの人が天寿を全うできるようになったのであり、これは人間の最大の幸福ではないだろうか。人々が死ななくなったということは、人間が大切にされるようになったということだ。


人口減少は、日本だけのことではない。アメリカを除く先進工業国の多くが、人口減少社会への途を辿っている。イタリアではすでに人口が減少し始めており、ドイツでは2005年頃から人口が減少する。イギリス、フランス、スウェーデンでも2025年頃から人口は減少する。また、人口減少はアジアでも同じである。中国でさえ2030年代の15億人余をピークに減少するとされている。


多くの人が、人口が減少する世界で経済を維持することの難しさを議論している。しかし、私はむしろ、人口減少こそが一人当たりの豊かさを飛躍的に上昇させる可能性のあることを指摘したい。これは、産業革命とは、人口が予想されたほどは増加しなかったという現象であることに拠る。シカゴ大学のロバート・ルーカス教授は、産業革命の本質は、生産物が増大したことではなくて、人口が増加しなかったことだ、と指摘する。すなわち、産業革命以前の世界では、生産物の増加は人口の増加によって浸食され、国民が一人当たりで豊かになることはなかったが、産業革命とは、技術革新によって生産物が増大しながら、それを食いつぶすほどの人口増加がなく、それゆえに一人当たりの所得水準が飛躍的に増大したという現象なのである。


産業革命はまた、それ以前の技術発展と異なり、さまざまな複雑な仕事を人類にもたらした。人々は、子供の数を増やすよりは、一人一人の子供により高い教育や訓練を施す機械の操作や会計帳簿の作成法を身につける方が、豊かで幸福な生活をすることができるということを理解した。そして教育にはコストがかかることから、子供の数を制限するようになった。


生産性を高める

労働人口が減少すれば、それだけ成長率は低下する。しかし、労働人口当たりの成長率は、むしろ高くなる可能性がある。労働力人口の減少が圧力となって、これまで実現できなかった構造改革が進むからだ。


事実、図-1に見るように、先進諸国の労働力人口増加率と労働生産性伸び率との関係を見てみると、労働力人口増加率の低い国あるいは減少している国ほど労働生産性の伸び率が高くなっている。労働力人口が減少しているスウェーデンやイタリアなど7ヶ国のすべてで労働生産性が上昇しており、その平均は年率2%である。労働節約的な技術革新が促進され、労働力の円滑な移動が促され、有効活用が進んだからだ。


図1 先進諸国の労働力人口増加率と労働生産性伸び率との関係
図ー1

1980年代後半に日本は欧米諸国へのキャッチアップが終了し、キャッチアップ型の日本の経済システムでは高い成長はできないという議論もあるが、キャッチアップしたとは、あくまでも為替レートで換算した場合である。内外価格差を考慮した購買力平価を使って比較すると、キャッチアップが終了したとは言えない。日本の一人当たり購買力平価GDPは、アメリカの8割にすぎない。逆にいえば、これら生産性の低い産業のキャッチアップによって、すべての産業部門で現在のアメリカの水準に追いつくことができれば、日本の労働生産性は25%(10割÷8割)上昇することになる。


キャッチアップ型で大丈夫だというのは、何もしなくてもよいということではない。為替レートの強さに反映される輸出製造業がアメリカに追いつき追い越したにもかかわらず、国内産業の生産性がキヤッチアップできなかったのは、競争を妨げるさまざまな規制があったからだ。このような規制を廃止していかなければならない。


労働者の増大

人口減少社会を豊かな社会とするもう一つの方法は、労働者を増やすことである。現在は働いていない女性や高齢者が働けば、さらに豊かな社会とすることができる。そうするためには、多くの女性・高齢者が働く意欲を持ちながらも、さまざまな理由から働けないという問題を解決していく必要がある。


女性にとっては家事・育児と仕事を両立できる社会環境、高齢者にとってはいつまでも働ける雇用環境を作ることが必要である。日本の女性の労働力率を年齢階級別にみると25歳〜39歳の部分で大きく落ち込んでいるが、他の国ではそのようになっていない。これは、日本の女性は、現実に働いている以上に働くことを望んでいるということを表している。働きたい女性が働けるような環境を整えることは、女性自身の希望に副うことであり、かつ、人口減少社会に向かう日本にとっても望ましいことである。


仕事と育児の両立をするためには、職場環境の整備も重要である。つまり、育児休業を取りやすく、職場復帰をしやすい環境、短時間勤務制度やフレックスタイム制度など子育てに配慮した勤務時間制度の充実や労働時間短縮の推進、事業主による子育てへの支援の促進をしていく必要がある。


高齢者社会のコスト引き下げ

人口が減少すること自体は、少しも問題ではない。人口が増加していくことを前提にした制度を作ってしまったことが間題なのである。しかし、高齢社会のコストが高すぎるなら、たんにそれを引き下げれば良いだけの話である。

高齢社会の主要なコストとしては、医療、介護、年金とさまざまあるが、ここでは最も重要な年金について扱う。


年金という制度は、現役の勤労世代が退職した高齢世代を養う仕組みである。現在の制度では、すでに高齢の世代は収めた年金保険料の割には有利な年金がもらえ、現在の若年世代では収めた年金も返ってくるかわからないという状況にある。年金は引き下げる必要があるが、では、どれだけカットすればよいのか。他の先進国をみると、最も高いスウェーデンでも、日本の53.4%であり、イギリスでは、29.6%である。日本の年金給付水準は諸外国の倍以上である。更に、各国の物価水準の違いを考慮して購買力平価により円換算して比較してみても、日本の受給額はやはり世界一高い。日本についで最も高いのは物価の安いアメリカになるが、それでも日本の75.8%でしかない。また、日本は現時点では60歳支給である。受給者が平均寿命程度生きるとすると、60歳から80歳までの20年払いになる。他国はすでに六五歳支給になっているので、80歳まで生きても15年払いである。総受給額は3割(20年÷15年)高いことになる。つまり、アメリカに比べて、購買力平価で見た月額が3割高いうえ、受給期間で3割高いことになり、実質的な格差は1.7倍ということになる。


高齢世代の生活水準は、究極的には、現役世代の豊かさに依存している。現役世代が豊かであれば、高齢世代も豊かな生活をおくれるが、そうでなければ諦めるしかない。スウェーデンですら年金保険料は18.5%で固定しているのに、2025年に25%に引き上げるなどという日本の制度が維持可能とは思われない。一方、日本の年金を世界的水準にすれば、年金負担を上げる必要がなくなる。具体的には、支給開始年齢を毎年6ヶ月ずつ遅らせて10年で65歳にし、支給額を毎年2%ずつ減らして10年で20%カットすれば、年金保険料を引き上げる必要はなくなる。


これからも続く日本の豊かさ

日本の少子高齢化は否応なく進む。これまでのような高い年金給付が維持できるはずがなく、維持できない制度なら、給付水準を減額するほかはない。減額しても、給付が確実になれば、むしろ生活不安はなくなるはずである。しかも、減額されても日本の年金は、世界一高い。


また、人口減少そのものが生活の豊かさに直結する。人口が減少すれば、生活環境の面でも豊かさを享受できることになる。人口減少は、今まで人口増加を前提に作られてきたさまざまな社会の仕組みを、少子高齢社会に適したものに変えていくことを迫っている。一人当たりの生産性を高め、より多くの人が働き、高齢社会のコストをカットすればよい。そのような改革ができれば、人口減少社会はむしろ楽しいものとなる。

(抄訳:浦部仁志)

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