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「中国人民元問題の本質は何か」

行天豊雄 (国際通貨研究所理事長)


オリジナルの英文:
"The Essence of the Chinese Currency Problem"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20040308_gyohten_essence/


要 旨


デフレと失業の輸出
中国の人民元の問題は起こるべくして起こっている問題といえる。ただし、これまでの人民元についての議論は、人民元が割安なために、中国製品が不当な競争力をもっていて、それが輸出相手国における雇用を奪ったり、デフレを輸出したりしているという非難であった。日本も米国もそのような議論をしてきた。ただし、そのこと自体誤った認識ではないが、それはそれほど大変な話しではないように思われる。

第一に、確かに中国製品は安いが、それでは2割か3割人民元を切り上げたからといって現在中国で作っている製品、例えばスニーカーやセーターが日本の国産品で置き換えられるかといえば、それはありえないであろう。第ニに、デフレ輸出論については、安い中国製品が入ってくれば国内の価格に対する下方圧力がかかることは確かであるが、日本の場合はそれが緩やかなデフレであればそれほど問題がないという見方もできる。したがって、これらの点を問題にする議論はあまり説得力がない。

むしろ最大の問題は、このような割安な通貨をあまりにも長く続けると、その国自身が非常に大きな不均衡を抱え込んでしまうことである。実は日本でも同じようなことが起きて、戦後4半世紀にわたり1ドル360円という円安水準を維持したために、その間に高度成長ができたが、その結果として、日本経済は全体としてみれば輸出が主導する経済に発展したことは紛れもない事実である。しかしそれがあまりに長く続いたために、日本は大変な過剰供給を作ってしまい、その背景として過剰借入、過剰債務、過剰雇用が起こった。そしてそれが80年代以降、持続不可能になって、不良債権問題となり、それに対処するための財政赤字の問題が起こり、それに付随して年金問題などの制度の破綻が起こってきている。

中国の過剰供給と世界的リスク
つまり、日本ではあまりにも長く続いた為替の不均衡が経済構造のひずみを生み、それがひいては「失われた10年」になってしまった。したがって、中国にも日本と同じ危険があるという警告を発する必要がある。ある意味で、それはすでに始まっているともいえる。実際に人民元が割安なために、中国では巨額な投資が製造業に対して行なわれ、輸出は毎年40%前後の高い率で伸びている。今のところよく売れているので、過剰供給の問題は起こっていないように見えるが、その兆候は随所に現れている。

例えば不良債権問題は日本以上に深刻である。それを処理するために財政は急速に悪化している。10年後の財政状況は日本の現状と同じくらい悪くなっているであろう。過剰雇用も農村から無限大の労働供給がなされているので、その恐れが大きく、過剰消費も起こるであろう。さらに中国の場合は、第一次産品、素材に対する過剰需要が、中国内の問題にとどまらず、グローバルな問題となり、環境とのバランスも含めた大きなリスクを負っているといえる。

したがって、中国の人民元の問題は、中国産品が不当に安くなるといった目先の議論よりも、中国自身の経済の中長期的にみた構造の問題であり、それが世界経済全体に及ぼすリスクを考えるべき性質のものである。

それに対して、もちろん中国側も問題点を理解しており、日本の前例もよく勉強しているので、頭の中では分かっていると思うが、現実問題として「急な調整は無理」という立場をとらざるをえないであろう。急な調整をすると、金融システムの問題や成長鈍化による諸問題が噴出するので、それは避けたいとの意向と思われる。したがって、調整ができるような準備を可能な限り行なうという立場であろう。国有企業の整理や不良債権問題の整理など、いろいろと人民元の変動相場制の移行への努力をしているとみなすことはできる。

ただし問題は、どんなに努力しても、あれほどの巨大な生産力をいったん作ってしまうと、黒字体質がビルトインされてしまい、不均衡が拡大していく。その意味で世界経済の不安定性は刻々高まっているといえる。それについてはやがて国際的な為替調整のための国際協議が必要となることは必至である。

アジアの通貨バスケット案
最後に、このような状況のもとで日本として戦略的に行なうべきは、ASEANプラス3という枠組みの中で、金融問題についての統合・協力関係の強化を最緊急課題として取り上げることである。例えば、金融市場の整備、とくに債券市場や株式市場などで遅れているところをキャッチアップさせて、アジア全体の金融市場として機能するようにすべきである。さらに通貨面では、できるだけ早く通貨バスケット制のような形で、アジア通貨にとって一つの安定的なメルクマールが生まれるようにしなければならない。

具体的には、最初は円とドルとユーロという通貨バスケットを作って、アジアの通貨はそれに対してできるだけ安定的になるように運営を行なっていくと同時に、アジアの通貨の国際通貨化をはかり、市場での取引の自由化を進めていって、通貨バスケットの中に人民元か韓国ウォンなどを入れる。そして最終的には、ドルとユーロをバスケットから外して、アジアの通貨だけでのバスケットを作って、アジア版の「ユーロ」にもっていく努力を早く始めるべきである。さもなければアジアの通貨は個別に切り上げ圧力を受けるだけであり、その圧力を避けるためには自国通貨のドル化しかないということになってしまう。しかしそれがアジアのためになるかどうかは疑問である。

(本稿は2004年2月4日に行なわれた行天豊雄氏とのインタビューをもとにまとめられたものである)

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