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「小泉内閣の経済政策について」

小林陽太郎(富士ゼロックス株式会社代表取締役会長、経済同友会代表幹事)


オリジナルの英文:
"Economic Policies of the Koizumi Cabinet"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200212_kobayashi_economic/


要 旨


最近の不安定な株価は、日本経済の回復に対する市場の確信のなさを反映している。この確信のなさの背景にあるのは、構造改革の見通しが悪くなったことに対する懸念が増したことである。特に、金融機関の経営に関して非常に強い懸念が表明されてきた。その結果、いつくかの銀行の株は投機的な売り圧力にさらされたのである。


私が代表幹事を務めている経済同友会は、日本の主要銀行の資本がすでに追加的な公的資金注入が不可避である点にまで悪化してしまっていると認識している。大銀行は、公には自己資本比率が10%から11%の間であると主張しているが、不十分な貸倒れ引当金や不適切な繰り延べ税金資産の算入を考えると、真の自己資本比率は危険なほど低い水準にあるのではないかと心配される。


今後株価がさらに下がり、不良債権が増加することを考慮に入れると、日本の金融システムの基盤は極めて脆いものといわざるをえない。したがって、経済同友会では、金融機関がリスクをとれるようにするために、広範囲にわたる金融機関に対して、かなりの額の公的資金を注入すべきと主張している。


10月30日に発表された改革加速のための総合対策(総合デフレ対策)については、不良債権処理の先送りをやめることへの第一歩としてプラスに評価したい。金融機関がリスクをとれるようになることと金融システムが安定することが、日本経済の復活にとって絶対に必要である。


公的資金の注入は、厳しい金融庁の監視体制のもとで金融機関が新しいビジネスモデルを開発するための余裕を与えるであろう。その後は、銀行経営陣の自己責任が問われることになる。政府は金融機関に対する個別具体的な指示はせずに、ガバナンスを強化するよう要請すべきである。


また総合デフレ対策で、新たに産業再生機構が創設されることになった。これは生かすべき企業を再生させる役割を負っているが、問題は企業が実際に存続できるかどうかをどう判断するかということである。そもそも個別企業が存続すべきかどうかを政府が決めるのは適当でないという批判がある。さらにこの機構が不良債権を塩漬けにして、単に産業保護機構になってしまうおそれもある。いずれにせよ、これまでは不良債権をどう無くすかということばかりに注目してきたが、今後は実際に企業をどう再生させるかに資源を集中すべきであろう。


さらに深刻なのは、失業問題である。雇用情勢は特定の部門で非常に厳しさを加えている。特に公共投資に依存している地方産業や中小企業は、大企業のリストラや銀行の貸し渋りや貸し剥がしの影響を直接に受ける。


政府は2002年度補正予算で、都市再生のような公共投資と雇用関連の安全網に焦点を当てて、4兆2千億円を積み増しするようであるが、この中で雇用関連の安全網が決定的に重要である。構造改革に痛みは避けられないが、政府はその痛みに対処する備えをする必要がある。雇用問題解決のためには、民間のノウハウを最大限活用すべきで、そのために雇用促進のための規制緩和や民間の参加が望まれるであろう。


小泉内閣の政策の基本的なスタンスは、「改革なくして成長なし」であり、「恐れず、ひるまず、大胆に」といった表現にあるものであった。ここで私たちは、小泉首相にこれまでの道を進み、基本的な政策や方向性は変更しないよう要請したい。それとともに、小泉首相が国民に向かって話しかけて、自分の言葉で現状をどう理解しているかについて説明するよう希望する。残念ながら、この点が小泉内閣の政策決定プロセスのなかで欠けているものである。そのために小泉首相は唐突で自己中心的なリーダーであるという一般的な印象が定着しつつあり、それがまた一般の不安や懸念を助長しているといえる。


今後とも小泉首相のリーダーシップのもとで、内閣が一致協力して構造改革のプロセスを加速させ、日本経済の再生を実現させることを期待するものである。

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