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日本はその利点を守るべき

ロナルド・ドーア (ロンドン大学教授)


オリジナルの英文:
"Advantages not Lightly to be Thrown Away"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200301_dore_advantages/


要 旨


日本人も米国人もその勤勉さでは有名であるが、同じ勤勉という行動について、その背景にある世界観や価値観は日本と米国ではずいぶん違う。


このところ欧州で開かれる学会などで、「エンロン」や「ワールドコム」の事件が取り上げられ、米国の企業統治の問題点が指摘されているが、米国の経営の現状には何かおかしなものがあり、企業経営者が私腹を肥やす誘引が多くありすぎて、ルール違反が日常的なものになっており、それを防ぐには罰則の強化しかないという異常な状態になっている。この米国企業の状態を正常化するために、日本的ともいえるような価値観の導入が必要と結論付ける欧州の研究者がいることは興味深い。


一番の違いは、米国では性悪説が基本にあって、外発的報酬が前提となっているのに対して、日本では性善説が基本になって、内発型の達成感が動機となって勤勉さが促進される点であろう。特に米国での外発的報酬の例としては、経営者のためのストックオプションがあり、これが経営者と株主の利害を一致させるものとして評価されている。これに対して、日本では年功賃金制が採用されており、それでも人々は仕事に満足感を見出して、仲間から期待される成果を上げるよう努力する。



最近、日本の企業も成果主義を導入すべきという議論が盛んになってきており、日本的経営で最も成功しているトヨタ自動車でさえも、ストックオプションを導入するという。この件でトヨタの奥田会長は、トヨタでは必要ないものの、日本経団連会長という立場もあるので、そうすることで新しい経営システムが日本で採用されることを助けたいと言っている。

しかし、日本が守るべきものは、やはり性善説の原理ではないか。「世間相場」に照らして当たり前の定額の給料をもらって、「いい仕事」「人のため、顧客を喜ばすための仕事」をして、それによって人が十分働き甲斐を感じられるという考えである。


問題はどうやって、その原理を廃れないようにするかだ。現在の日本は、金融業という最もプレステージの高い業種で、すでに11%の従業員が外発的動機づけ制(外資系企業)の環境に働いており、さらに総理大臣の周りには、米国で外発的動機づけが絶対に必要と説く新古典派経済学に洗脳されてきた人が多い時にである。


米国では、マックス・ウェーバーが礼賛した自己規制、倹約、良心といった初期資本主義の道徳は、だんだんと貪欲に侵食されている。それに対して、日本の「道徳的遺産」はまだ生きている。それを守るため、日本的経営の良さを信じる人たちが「改革、改革」と無意味なスローガンを繰り返さずに、もっとハッキリと「道徳的遺産」の利点を主張すればいいと思う。

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