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景気回復の鍵となる日本の住宅市場改革

島田晴雄 (慶應義塾大学教授)


オリジナルの英文:
"Housing Market Reform a Key to Japan's Economic Recovery"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20031014_shimada_housing/


要 旨


日本経済復活の鍵を握る個人消費はきわめて低調である。その理由として、人々が将来不安を抱えているために、消費を節約して貯蓄を増やしていることが言われる。しかしこの不安の中身は、実は住宅問題である。日本では、住宅が売れない、貸せないために、自らの資産価値が喪失してしまうという問題にぶつかる。これが不安の原因である。


戦争で日本の都市の住宅は多くが焼き払われた。戦後直後は公営住宅が建築され、その後公共政策によって住宅の整備が図られた。その後人々の所得水準も向上してくると、住宅政策の主眼は持ち家促進にシフトした。その結果、1968年、戦後23年目には、住宅数が世帯数を上回るに至り、その限りでは大成功を収めた。


この成功の背景には、地価と賃金の上昇がある。地価の上昇は担保価値を増大させ、ローンを組む能力を増大させる。税制がもう一つの理由である。特に1970年代以降、住宅新築を有利にするローン減税が繰り返された。一方、既存住宅については税制優遇は行われず、取得税・登録税など様々な税金が課された。


既存の住宅が流通せず新築は建てやすいという環境の中で、人々の新築志向が高まった。築20年以上の住宅は壊し、新しい住宅を建てることが高度成長期以降、慣行化していった。既に建っている住宅を評価し、流通されることは行われなかった。


今の日本では、住み替えは非常に困難である。既存住宅について適切な評価が行われていないため、家の品質がわからないからである。こうした中で無理に売ろうとすれば、価格は非常に安くなってしまう。


日本では、年間120万ー150万戸ほどの住宅が新築されているのに対し、既存住宅はその約10%、15万戸程度に過ぎない。全国にある住宅が5,100万戸を上回ると見られているので、その僅か0.3%ほどである。この数字は、アメリカの12分の1である。このように、日本には流通市場は殆ど存在していない。即ち、住宅は、所有者が不要になれば価値が殆ど無くなるのである。


これまでは、既存住宅の流通市場がなかったため、人々は新築志向にならざるをえなかった。中古住宅の減価が非常に激しいために、人々は貯蓄せざるを得なかった。さらに、中古住宅の品質評価がなされないために、住んでから欠陥や不具合が見つかるというリスクがあった。これらの要因が、新築志向にさらに拍車をかける悪循環が発生している。従って、住宅市場を充実させるためには、インフラを整備する必要がある。


一方、賃貸住宅市場の整備が進まない一つの原因として、賃貸住宅はビジネスとして成立しにくい状況が挙げられる。大都市圏の郊外などで、土地を持っている農家などが庭先に小遣い稼ぎに賃貸マンションを建てるといった例に対して、投資収益を重視するデベロッパーは競争できない。また、金融についても、分譲であれば資金の回収が早いのに対し、賃貸の場合は何十年もの長期リスクを負うことになる。さらに、そこに住む人たちも、賃貸は仮の住まいという意識から、質がある程度悪くても当然という意識になる。結果として、家族が快適に住める良質な賃貸住宅は不足する。


同じ原因で、リフォーム市場も未整備である。未整備であるから業者側も住民側もリスクが大きく、結果として中古住宅は壊す方が安全となってしまう。


社会の大きな流れを見ると、戦後、日本の地価は一貫して上昇して来た。1950年から1990年までの間に名目所得が50倍になったのに対し、地価は330倍に増えた。工業化・都市化の過程では、限られた土地の早めの手当てが必須であった。しかし、これから人口が減少すれば、土地を奪い合う必要は無くなるので、同じメカニズムは通用しない。


これから土地・住宅は、所有することに意味がある資産として保有するのではなく、使用することにこそ意味がある。このためには、市場機能を支えるインフラの整備が必要である。買い替え、住み替えがしやすい中古住宅市場、賃貸住宅市場、それを支える住宅の性能評価、情報の提供、流通のインフラの整備である。


流通市場の整備のためには、四点挙げておきたい。
第一は、住宅の性能検査である。評価手法を開発した上で、専門家による評価を行うという、分かり易いシステムを開発し普及させる必要がある。
第二は、情報の透明化であり、現在のような消費者に対する不十分な情報提供では不十分で、安心して取引が出来ない状況を改善する必要がある。
第三は、住宅の資材・部材の標準化・工法の標準化である。これによって、そもそも住宅という製品の品質を一定以上に維持する基盤となる。
第四は、税制である。新築に著しく有利で、中古住宅の流通に重い税金をかける現在の制度は見直しが必要である。また、生前贈与税の軽減も必要である。


賃貸住宅市場の活性化には三つの課題がある。これまではあまりに借り手に有利な借地借家法が、賃貸住宅の供給を阻害してきたのは明らかであり、定期借家制度の普及が必要である。第二は、賃貸住宅建設の支援である。分譲には金融が付き易いが、賃貸には付きにくい状況を改善する必要がある。第三には、賃貸住宅への入居者に対する支援である。賃貸住宅の借り手にも新築に対するものと結果として同程度の優遇・減税措置が適当であろう。


これらの施策に加え、より広い観点からは、土地・住宅などの証券化や、ケアつき住宅等の整備、さらには都市計画や都市再開発をも見直し、生活の基本である住宅であるからこそ、人々が人生の過程で自由に選択して豊かな生活を求めることが出来るシステムを志向すべきであろう。

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