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マニフェストは日本の政治を変えるか

小林陽太郎 (富士ゼロックス株式会社 代表取締役会長)


オリジナルの英文:
"Will Manifestos Change Japan's Politics?"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20031021_kobayashi_will/


要 旨


マニフェストへの期待

細川政権が発足した1993年、我々は「日本の政治が変わる」という大きな期待をいだいた。それから10年を経た今日、再び日本の政治に変化の兆しが見られる。そのキーワードのひとつがマニフェストである。マニフェストとは、政党が政権任期中に推進しようとする政策パッケージ(政権公約)のことであり、1)検証や評価が可能な具体的目標、2)実行体制や仕組み、3)政策実現の工程表を出来る限り明確な形で示した、「国民と政権担当者との契約」であると言われる。

マニフェストは、議院内閣制の母である英国を模範とするものであるが、これを日本の政治に導入することによって概ね次のような、いずれも日本の政治にとって非常に重要な効果が期待されている。ひとつは「政策本位の選挙の実現」である。次に「政治主導の政治の実現」である。最後に、「責任ある政治体制の実現」である。総裁選で勝ったマニフェストを党のマニフェストに昇格させる仕組みを作れば、内閣と党の二重構造を解消させることができる。


マニフェスト導入に向けた動き

このような期待がかかるマニフェスト導入を「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)や経済同友会などの民間機関が強く訴えてきたが、ここにきて政治家サイドの動きも活発になってきた。

本年7月には、超党派の若手を中心とした国会議員が集まり、「政権公約推進会議」を結成している。また、自民党では小泉首相が7月に「総裁選で自分が勝った場合は、自分の方針が自民党の公約になる」と発言し党内で物議を醸したが、9月の総裁選でその小泉首相が総裁に再選された。最大の野党である民主党と自由党が合併した新しい民主党は、既にマニフェストを公表している。こうした動きを経て、11月の衆議院総選挙は各政党がマニフェストを掲げ対決する初めての選挙となると見込まれている。


マニフェストは日本の政治を変えるか

では、マニフェストが導入されれば、日本の政治改革が一気に進むのであろうか。日本の政治においてマニフェストが機能するための課題の第一は、「マニフェストは全体の一部」という点である。現在の日本の政治に最も強く求められているもの、そして、欠けているものは「信頼」である。政治への信頼抜きに「マニフェスト」という一部分だけを変えても何も変わらないだろう。

次に「政治家の能力」の問題である。政治家が信頼に足る政策を立案できるのか、国民にわかりやすくプレゼンテーションできるのかという点である。今でも政策立案はその多くを行政に依存しているのが実情であり、これまでその任を担ってこなかった現在の政党には政策立案能力が欠けている。自民党と民主党から「マニフェストは出たけどどちらも大して違わないね」となってしまっては意味がない。

もうひとつは「政党のガバナンス」の問題である。政党が果たしてマニフェストを前提とした政治ができるのかという問題である。自民党の総裁選では政策よりも「選挙の顔」としての小泉総裁を選ばれたと言われているが、そのような状態で自民党は本当にマニフェストが実行できるのか。また民主党についても、様々なバックグラウンドを持った党が一本筋の通った「マニフェスト」を示し、反対論を抑えて実行できるということをどう国民に納得させられるのか。


マニフェストを成功させるために

それでは、マニフェストを日本の政治の活性化、即ち、政策本位の政治、政治主導の政治、そして、責任ある政治体制の実現に結びつけるために、どうしたらよいであろうか。私はここでの最大の鍵は「実効あるレビュー」であると考える。最近、行政関係者の間で、Plan, Do, Seeあるいは、Plan, Do, Check, Actionという言葉が頻繁に使われるようになった。民間では30年以上も前から常識の考えであるが、この考えが行政の中に持ち込まれたことは喜ばしい。ここでもKey WordはSeeであり、Check, Actionである。予算といい、政策提言といい、Planだけで終わるものが半分以上、Doも中途半端が半分以上、結果の真摯なレビュー(See, Check)を次のActionに結びつけて廻っているものはほんの一部に過ぎない。

マニフェストはPlanの部分の具体化であり、そのレベルでの国民の理解は深まる。しかし、それが実施を経てキチンと評価されて次のアクションに結びつけるステップを併せて提示し、それにコミット出来ることがマニフェストを成功させるためには不可欠である。そのためのNPO、シンクタンクの政策評価力強化、そして、議会の予算委員会の権限強化等を併せて検討実施することをせつに期待する。

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