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メキシコとの自由貿易交渉決裂が示す経済戦略の不在

畠山 襄 (国際経済交流財団会長)


オリジナルの英文:
"Failure of FTA Negotiation with Mexico Signals Trouble for Japan"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20031211_hatakeyama_failure/


要 旨


日本がメキシコと進めていた自由貿易協定(FTA)交渉が、10月16日、決裂した。日本の将来に対するこの影響は見た目以上に深刻なものがある。日本にとってFTA交渉の本番はこれからだ。韓国やASEAN諸国とも交渉しなければならない。ハードルが遥かに低いメキシコとの交渉をまとめることもできないのであれば、当然今後の難航は想像に難くない。


日本がこれまでに締結したFTAはシンガポールとの間のみであるが、これは農業分野が殆ど問題にならない相手であったために成立した。そして、本格的FTA交渉の初の相手として、メキシコが選ばれた。この理由は幾つかあるが、まずメキシコが、そもそもそれまで自由無差別を掲げるWTO中心主義であった日本に対しFTAの提案を行い、政策の変更に至らしめたことである。また、既に世界三十数ヶ国とFTAを締結したベテランであること、そして産業構造が基本的に日本と補完的であったことが挙げられる。因みに、今回交渉決裂の原因となったとされる豚肉も、実際のメキシコの生産量は僅かなものである。


アジアとのFTA体制構築の重要性には、防御的な意味と積極的な意味がある。防御的というのは、ある国が他国とFTAを締結してしまった場合に日本の輸出が蒙る被害である。その国ではFTA締結国からの輸入が、関税がなくなるために安くなり、日本からの輸入は行われなくなってしまう。日本の工場を守るためにFTAが重要なのである。一方、積極的な意味としては、国内産業において、資源の最適配分が行われることに寄与することが挙げられる。少子高齢化が進む日本では、貴重な労働力を生産性の高い分野に特化させる必要があるが、FTAがこれをサポートする。そしてこのことは、即ち小泉総理が提唱する構造改革そのものである。つまり、FTAは構造改革を推進する効果を持つ。今までの政府にはこの面の理解が不足していた。この意味でも、FTAに向けての強いリーダーシップが欠けていたことは問題であった。


しかし、メキシコとの交渉決裂の結果として、政府首脳の間でも、FTAに対する考え方を見直そうという機運が見える。日本もようやく本格的にFTAに取り組むべく、文字通り「例外なき構造改革」に向けて、政治がリーダーシップをとり始めるのかもしれない。それが、独り日墨FTAの年内交渉再開だけでなく、日韓FTA、ASEAN主要国とのFTAに関する年内の交渉入り、ASEAN全体とのFTA協議の明年開始、さらにはWTOのドーハ・ラウンドの来年末妥結へと繋がることを強く期待したい。

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